⑧ 産業医が復職判断で本当に悩むケース3選― 人事が知っておくべき実務上のポイント ―

復職判断は、チェックリストのように「当てはまる・当てはまらない」で決められるものではありません。
実務では、「判断に必要な情報が足りない」「状況は分かるが、先が読めない」といった理由で悩むことが多くあります。

ここでは、産業医として実際によく悩む復職判断のケースを3つ取り上げ、その背景と考え方を整理します。

① 日常生活はできているが、体力・集中力が回復しているか分からないケース

日常生活が送れていること自体は、回復の一つの指標になります。
しかし、日常生活ができることと、仕事ができることは別です。

実務で悩むのは、
「日常生活は問題ないと言っているが、体力や集中力がどの程度戻っているのか分からない」
というケースです。

例えば、休職中の過ごし方を聞くと、

  • 家でゲームをしている
  • 動画を見て過ごしている
  • 外出は最小限

ということはよくあります。
これ自体が悪いわけではありませんが、これだけでは体力や集中力が回復しているか判断できません。

このような場合、産業医としては
「復職に必要なのは、体力と集中力である」
という点を本人にきちんと説明し、

  • 散歩などの身体活動
  • 一定時間の読書などの集中作業
  • 睡眠・食事のリズム

を意識してもらい、生活記録をつけてもらうことが多くなります。

最低でも2週間程度、
「調子の良い日だけではなく、悪い日も含めて安定してできているか」
を確認して、初めて復職の可否を検討します。

② 条件付き復職をしているが、配慮のゴールが見えないケース

条件付き復職は、復職初期の調整として非常に有効です。
短時間勤務、業務軽減、夜勤免除、特定業務の除外など、現場ではよく使われます。

産業医として悩むのは、
配慮は続いているが、「いつまで」「どこまで」配慮するのかが整理されていないケースです。

例えば、

  • 夜勤はいつまで免除するのか
  • 部署異動は一時的なのか、恒久的なのか
  • 特定の上司・同僚との接触制限をいつ解除するのか

こうした点が曖昧なまま条件付き復職が長期化すると、
本人も職場も先が見えず、判断が難しくなります。

条件付き復職は「配慮」ではありますが、
目的は最終的に通常勤務に戻れるかを見極めることです。

産業医としては、

  • この配慮は何のために行っているのか
  • どの状態になれば次の段階に進めるのか

を整理し、配慮のゴールを会社と共有する必要があると考えています。

③ 休職に至った原因について、本人と会社の認識が大きく食い違っているケース

復職判断で特に慎重になるのが、
休職の原因について、本人と会社の認識が大きくずれているケースです。

本人は
「会社や上司が原因だった」
と感じている一方で、
会社側は
「業務上、特別な問題はなかった」
と認識している。

このように、原因の捉え方が一致していない状態で復職を進めると、
復職後に不満や不信感が再燃しやすくなります。

医学的には回復しているように見えても、
職場との関係性が修復されていない場合、復職は不安定になり、
再休職しやすいのが実情です。

産業医としては、

  • どこに認識のズレがあるのか
  • 何が整理されていないのか

を丁寧に確認し、
「復職後に同じ構図が再現されないか」
という視点で慎重に判断します。

迷うケースこそ、判断を急がないことが大切

ここで挙げたケースに共通するのは、
「復職させてはいけない」という明確な結論がすぐに出るわけではない、という点です。

しかし、判断に迷うということ自体が、立ち止まって整理すべきサインであることも多くあります。

  • 体力・集中力を客観的に確認できているか
  • 条件付き復職の目的とゴールが共有されているか
  • 休職の原因について、最低限の整理ができているか

これらを一つずつ確認しながら、
復職後に安定して働ける状態を目指すことが、結果的に会社と従業員双方を守ることにつながります。

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