④ 主治医の診断書だけでは足りない理由 ― 産業医の役割とは

復職の判断にあたって、主治医の診断書が出された後に、産業医面談を行う会社も多いと思います。その際に、「主治医の診断書があれば十分ではないか」「産業医面談をする意味はなんだろう」と感じたことのある方はいないでしょうか。実際、主治医は患者さんの治療を担う中心的な存在であり、診断書は重要な医学的情報です。この疑問が生まれるのはごく自然なことです。

しかし、特に復職判断においては、主治医の診断書だけでは不十分になるケースが少なくありません。

主治医の診断書が持つ限界

主治医の診断書には、診断名や「○月○日まで休養が必要」「○月○日から復職可能」といった記載がされることが一般的です。場合によっては「業務軽減が望ましい」「部署異動を検討してください」といったコメントが付されることもあります。

しかし、診断書に記載される情報はどうしても抽象的になりがちです。たとえば、同じ「うつ病」という診断名であっても、気分の落ち込みが強いタイプ、不安が前面に出るタイプ、意欲低下が主症状のタイプなど、状態はさまざまです。しかし診断書上は、いずれも「うつ病」と一言で記載されることがほとんどです。また、会社でどのようなところに配慮すべきなのかも一人ひとり異なります。

また、主治医が患者さんの会社の状況や具体的な業務内容を十分に把握しているとは限りません。この理由は、前の記事で書いた「精神科の診察が『5分診察』になりやすい理由」で詳しく解説しています。

さらに、診断書の内容には患者さん本人の希望が強く反映されることも少なくありません。主治医が復職には時期尚早と考えていても、患者さんが復職を強く希望するあまり、結果として復職可能の診断書が出されるケースや、患者さんが調子の良い時の情報だけを伝えたことで、実際よりも回復していると評価されてしまうケースもあります。

こうした診断書の情報だけをもとに、医学的知識を専門としない人事労務担当者が適切な配慮内容や復職プログラムを設計するのは、現実的には非常に難しいと言わざるを得ません。

医学と職場をつなぐ存在としての産業医

ここで重要な役割を果たすのが産業医です。産業医は、医学的知見を持ちながら、実際の職場環境や業務内容を踏まえて助言を行う立場にあります。主治医の診断書を否定するのではなく、その医学的情報を「この職場ではどう活かすべきか」という形に翻訳する役割を担っています。

産業医は休職や復職を決定する権限を持つ存在ではありませんが、会社が安全配慮義務を果たしながら妥当な判断を行うために、欠かせない医学的パートナーです。主治医、会社、従業員の間に立ち、医学と職場をつなぐ存在がいることで、無理のない復職や再休職の防止につながります。

主治医の診断書だけでは埋めきれない部分を補い、会社と従業員の双方にとってより良い判断につなげること。それが産業医の重要な役割だと考えています。

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