復職判断の場面で、
「主治医の診断書も出ているし、本人も復職を希望している」
にもかかわらず、会社や産業医が慎重な姿勢を取ると、
「なぜそこまで慎重なのか」「復職させたくないのではないか」
と疑問を持たれることがあります。
この背景には、「安全配慮義務」という考え方があります。
復職判断を考えるうえで、安全配慮義務は避けて通れない視点です。
安全配慮義務とは何か
安全配慮義務とは、簡単に言えば、
会社が従業員に対して、生命や健康を損なわないよう配慮する義務のことです。
労働契約法という法律に規定されています。
これは、事故や労災を防ぐためだけの義務ではありません。
長時間労働や過重な業務によって健康を害さないようにすることも含まれます。
復職の場面では、
「その従業員が、今の状態で働くことで、再び健康を損なうおそれがないか」
という点を、会社は考えなければなりません。
なぜ復職判断が会社の責任になるのか
復職について、
「医師がOKと言っているのだから問題ないのではないか」
と考えたくなる気持ちは自然です。
しかし、復職を発令し、実際に働かせる主体は会社です。
そのため、復職後に体調が悪化したり事故に遭ったりした場合、
「なぜその状態で復職させたのか」
という点が問われるのは、会社になります。
主治医の診断書や産業医の意見は、あくまで判断材料です。
それらを踏まえたうえで、最終的に復職させるかどうかを決めるのは会社であり、
その判断には安全配慮義務の観点が強く影響します。
医学的に回復していても慎重になる理由
復職判断が難しいのは、
「医学的に回復していること」と「安全に働けること」が必ずしも一致しない点にあります。
日常生活が問題なく送れていても、
週5日、1日8時間の労働に耐えられるかどうかは別の問題です。
日常生活と労働では、身体や精神への負荷が大きく異なります。
実際に経験したケースとして、次のようなものがあります。
休職中、自宅での生活は安定しており、家事もこなし、通院にも問題なく通えていました。
本人も「日常生活は問題ない」と話しており、主治医からも復職可能の診断書が出ていました。
ただ、休職中の過ごし方を詳しく聞くと、日中はほとんど自宅で過ごし、身体を動かす機会は少なく、集中を要する活動もあまり行っていませんでした。
それでも、「日常生活は送れている」という点を重視して復職を許可しました。
結果として、復職後しばらくは出勤できていたものの、業務量が増えるにつれて疲労が強くなり、集中力も続かなくなりました。
最終的には体調を崩し、短期間で再休職に至りました。
このような事例からもわかるように、
「今は大丈夫そうに見えるが、本当に復職させて大丈夫か」
という点について、会社や産業医は慎重にならざるを得ません。
これは、本人を信用していないからでも、復職を妨げたいからでもありません。
安全配慮義務を果たすために必要な視点です。
安全配慮義務と産業医の役割
産業医は、復職を決定する立場ではありません。
しかし、安全配慮義務の観点から、
「どのような条件であれば、比較的安全に復職できそうか」
「まだリスクが高い点はどこか」
を医学的な視点で整理し、会社に助言します。
例えば、
体力や集中力の回復状況、
条件付き復職の必要性、
休職に至った原因への対策状況などです。
これらを整理することで、
会社は安全配慮義務を意識した、より妥当な復職判断を行うことができます。
慎重な復職判断は、結果的に会社と従業員を守る
復職判断に慎重になると、
「過剰に配慮しているのではないか」
「復職を遅らせすぎているのではないか」
と私自身感じることもあります。
しかし、復職後に体調を崩し、再休職に至ることは、
本人にとっても、会社にとっても大きな負担になります。
そして、慎重に復職支援を行ったケースでは、結果として再休職に至る確率が低い、という実感があります。
一方で、後から振り返って
「あのとき復職を許可するのは早すぎた」
と感じるケースがあるのも事実です。
安全配慮義務を意識した復職判断は、
トラブルを避けるためだけのものではありません。
従業員が安定して働き続けられる環境を整えるための考え方です。
復職判断に迷いが生じたときは、
「なぜ慎重になるのか」
「どこにリスクがあるのか」
を一つずつ整理することが重要です。
その過程自体が、安全配慮義務を果たすことにつながっていきます。
